第16章 織物のように(三成)
『いや…特にそう言うわけではないんだが…うわ!』
秀吉がしどろもどろになっていると、
いつの間にかすぐ後ろまで近づいていた愛が持っていた書物を掴んだ。
「もしかして、三成くんにお土産?」
本を手にしたまま秀吉見上げる愛に、
秀吉は観念したように力なく笑う。
『あぁ。三成が気にしていた書物を、視察先の大名が手に入れてくれて…』
「すごい!良かったね三成くん!
この前問屋に行っても手に入らないって言ってたやつでしょ?」
そう言いながら、三成の手に渡す。
『これは!
秀吉様、ありがとうございます!早速そのお方に礼状を出さなければ!』
秀吉の動揺も全く気にせずに、
愛も自分の事のように喜んでいる。
秀吉は、ため息をそっとついてから、懐から小さな包みを取り出した。
『ほら、こっちは愛に土産だ』
「え?私にもあるの?」
愛は、拾った紅葉をそっと懐にしまい、
その包みを受け取り、丁寧に開けた。
そこには、可愛らしい紅葉の絵が施された入れ物。
「わぁかわいい!小物入れ?」
『開けてみろ』
ファンデーションのコンパクトくらいの可愛い入れ物を
そっとあけると、ふわっと良い香りが漂う。
「これ、練り香水?凄く良い匂い!
秀吉さん、ありがとう」
嬉しそうに秀吉に礼を言う。
『入れ物も香りも、お前に似合うと思ったんだ。
これからも三成を頼むぞ』
そう言うと、無意識のように愛の頭をポンポンと撫でた。
その様子を見ていた三成は、人知れず顔を曇らせる。
(秀吉様が愛様を思って選んだ練り香水…
あれを愛様は身につけるのでしょうか…。
いや、あれは私の土産と同じようなもの。私は何を考えて…)
主君の優しさは、兄のようなもの。
わかっている筈なのに、三成は今まで感じた事のない感情に襲われた。
(先日も台所で政宗様にああやって頭を撫でられていましたね…)
台所から聞こえ漏れる声に引かれてそっと覗くと、
二人で楽しそうに料理をしている姿が目に入った。
(私には到底出来ない技術ではありますが…)
その時に感じた、モヤモヤとした想いが今もここにハッキリ感じ取れた。