第13章 忍びの庭 終章
『愛姫様、お会いできて光栄です』
『お噂通りの美しい姫君ですね…。安土城の皆様がお羨ましい』
宴の日は朝から、傘下の大名や、日頃安土城下で取引のある面々が続々と集まり、
皆が織田家ゆかりの姫に一目会おうと行列が出来ていた。
信長の隣に席を置き、朝から絶えることのない挨拶を続けている。
夕刻より、酒の席が盛大に開かれることもあり、
その前に献上品を持参した者たちが列を成している。
太陽が真上に上がる頃、一度休憩を挟むと告げられ、
信長と愛は天守に戻った。
『愛様、お疲れでしょう。お身体は大丈夫ですか?』
休憩の準備が整えられた天守では、三成と秀吉が待ち受けていた。
「うん…大丈夫。信長様の方がお疲れじゃないですか?」
愛は、一緒に皆の挨拶に応えていた信長を気遣った。
『信長様も愛も、ゆっくり休んでください。
昼餉の後は、私達も一緒ですから、もう少しゆるやかに過ごされるかと』
秀吉がお茶を入れながら笑顔を向ける。
「愛、中々様になっていたぞ。
その着物もよく着こなしているな。似合ってるぞ」
信長は疲れを見せずに愛を労うと、
秀吉に向かい、真面目な声を出す。
「秀吉、何か動きはあったか」
書状を出してからまだ一日。
上杉へ届いているとは思えないが、
既に戦の準備を整えていると情報を入手している限り
油断はならない状態に変わりはない。
『いえ。特に表立った動きはございません。
しかしながら、斥候の情報では早馬の伝令が明日の夜には届く予定との事です』
「ほう。大分早いな」
すると、三成がいつもの笑顔を向け、
『各地にいる斥候から斥候へと早馬を代わって送らせております。
早馬の部隊が単独で届けるよりも、疲れもなく早く届けられるように致しました』
と告げる。
信長は満足そうに、一つ頷くと不安そうな顔を向けている愛の掌を取る。
「貴様がそんな顔をしても、何かが変わるわけでもない。
これでも食べて、ゆっくり休め」
掌に乗せられたものは、白い金平糖だった。
「ありがとうございます」
素直にそう言うと
『…何処から持ってきたんですか…』
眉間に皺を寄せてため息をつく秀吉がいた。