第13章 忍びの庭 終章
安土城内は、忍びの侵入があった緊張感はほんの一部だけに留めていた。
明日の宴を前に、女中たちも、それぞれの家臣たちも忙しなく動いている。
周りに動揺させないために、光秀以外の武将たちと愛は、天守に集められていた。
すでに、上杉への書状は、先に捉えていた佐助の仲間と共に、
信長の家臣の早馬で出立していた。
『早馬がつくのが先か、向こうが出陣するのが先かってところですかね』
家康が、口を開く。
愛は、謙信はどのような判断をするのかを考えていた。
『愛、何難しい顔をしてるんだ。
眉間の皺が秀吉みたいにってるぞ』
政宗が、隣に座る愛の眉間をグリグリと指で押しながら笑っている。
「ちょっと…やめてよ!
謙信様の事、考えてただけだよ」
すると、黙って聞いていた信長は、珍しく真面目な顔で愛を見た。
『ほぉ?貴様がこの状況で、何を上杉に思う事がある』
その一言で、そこにいる全員が愛に集中した。
「いえ…。そんな大したことではありません。
ただ、佐助君が謙信様の右腕であるなら、書状が出陣の前に届かなかった時、
佐助君に何かあったか、不安になったりしないのかなって思っただけです」
『何その、ふわっとした想像…』
家康が呆れた声を出す。
「いえ…」
その時、三成が口を挟んだ。
「愛様の仰る通りかもしれません。
上杉にとっては、佐助殿は大きな戦力の一つと思われます。
その佐助殿が、安土に侵入しているにも関わらず、
出陣の前に何の連絡もよこさず、動きがわからないとなれば、
予定通りに出立するかは怪しくなって来るはずです』
愛と三成の話を聞くと、信長は
『どちらにしろ、今は此方が待つ身となっている。
明日からの宴の事もある。特に、外からの出入りのある期間だ。
くれぐれも、このことを漏らさないようにしろ』
と、全員を見渡した。