第12章 忍びの庭 後編
『ほら、三成早く行きなよ…』
席に着くなり、家康は隣の三成を促す。
(なんなの…あんな馬鹿みたいに可愛い顔…)
『家康様、本当にお似合いですよ!私も家康様のひたむきさを習って…』
『いいからさっさと行けって!』
家康が乱暴に三成を押し出した。
『わぁ…』
「わぁ!」
勢い余って愛に飛びつく形になった三成は、
そのまま愛に抱きつきながら二人で畳にもつれ込んだ。
『す、すみません愛様!お怪我は…』
「だ、大丈夫!三成くんっ!近っ…」
『おい、お前ら何してんだ。離れろっ。家康も行動に気をつけろ!』
慌てて秀吉が二人を引き剥がす。
『くくくっ。家康、残念だったな』
光秀が悪い笑みを浮かべて言った。
家康は何も言わず不機嫌な顔でそっぽを向く。
「三成くん、ごめんね、私もボーッとしてて。用意するから」
そう言うと、今日できたばかりの澄んだ水辺のようにキラキラと輝く晴れ着を手に取った。
薄い菫色は透明感があり、生地自体にラメのような糸が織り込んであり角度により輝きが増す。
『これは…素敵な色味ですね。生地自体が光っていて、線香花火を思い出します』
三成が最高のエンジェルスマイルを見せた。
袖を通してみれば、三成の髪の色や肌の色にもスッと馴染み、
まるで長年着こなしているように思わせた。
『馬子にも衣装だな、三成』
政宗が軽口をたたけば、
『お前のだけ愛情が多いんじゃないか?』
と、光秀が意地悪そうに愛を見る。
「もう、そんな事ないです。
皆さん全員に私なりの精一杯の感謝の気持ち込めて作ったんですから!」
『三成の花は…』
秀吉がマジマジと見ながら考えている。
「蓮華草です」
『花言葉は鈍感…』
「もう、家康!違うよ!
花言葉は、〈あなたといれば心和らぐ〉だよ」
『愛様…』
三成が驚いたような顔で愛を見ていた。
「何もわからなくて怯えてた私の気持ちをいつも穏やかにさせてくれたから。
信用されてないって悲しくなった時もあったけど、
その意味も、三成くんの立場になればわかる気がするよ」
『なんか三成だけ、花言葉の趣旨違くない?』
家康から不満の言葉が漏れる。
『流れ的には、策略…とか来ると思ったがな』
政宗も面白くなさそうに言った。