第8章 私が髪を切る理由(幸村)
『佐助のやつが、お前が髪を切りたがってるって言うから』
「えっ?」
『お前らがいた時代では、失恋てのをした時に髪を切るんだろ…。
誰かを忘れたい時とかにも…』
愛は、大真面目に言う幸村には悪いと思ったが、
ついつい、堪えきれずに吹き出してしまう。
「ぷっ…クスクスクス…
佐助君て、なんか…古いなぁ…あはは」
『違うのかよ?』
「確かに、そういう人もいるとは思うけど、
失恋で髪を切るって発想は私には無かったよ?」
『でも、お前昔っから髪長かったんだろ?
なんで急に切りたくなったんだよ』
その質問に、急に愛の顔が赤くなり、
言葉を選ぶように、目線を泳がせる。
「それは…これ、着けたかったから…」
そう言って、頭につけていた髪飾りを触る。
『それ…』
幸村はその髪飾りを見て息を飲む。
髪型が変わっていた事にばかり意識を取られていたが、
今日愛がしている髪飾りは、
前回安土に来た時に、幸村が贈った物だった。
「これ着けるには、髪が短い方が絶対に映えるんだもん。
でも、私の髪は長くて、結い上げても思い通りに飾れなかったから…
だから、髪を切りたいなって思ったの」
髪を切りたい理由が、自分の為のようなものだとわかり、
幸村は心臓を鷲掴みにされるような想いだった。
『馬鹿かよ。お前なら、どんな髪型で着けても、
似合わないはずないだろ』
そう言うと、恥ずかしそうに顔を埋めている愛の頭に
優しく口づけを落とす。
『でも、今日のその髪型も、すげー似合ってるぞ』
その声に、愛はもう一度幸村を見上げる。
幸村は背中に回していた手を、愛の頭に回し直し、
そのまま引き寄せ唇を奪う。
離れていた時間を取り戻すように、何度も角度を変え、
より深く、愛を求めた。
「ん…ゆき…むらっ」
『愛…まずいな…そんな目で見られたら、
お前を帰せなくなる…』
そう言うと、愛の首筋に甘く歯を立てるように
口づけを落とす。
「やぁっ…ん…」
愛は身体をビクッと震わせ、
必死に幸村にしがみついている。
幸村はもう一度、唇を少し乱暴に奪い味わい尽くすと、
『お前が好きだ…。本当に逢いたかった』
素直な気持ちをもう一度伝える。