第5章 恋の試練場 中編
慌てて片付けようとするが、更に溢してしまう。
「クスクスクス…あははっ…」
『愛様…』
三成が少し悲しそうな顔で愛を呼ぶ。
「ご、ごめん…ふふふ…」
まだ笑っている愛を見て、三成もつられて笑顔になる。
『愛様がそうやって笑ってくれるなら、良かったです。ふふふ…』
三成も笑い声をあげた。
そういう三成に、愛も、
「私も。三成くんが笑顔になってくれて良かった」
その言葉に、びっくりした顔をする三成。
「三成くんのせいじゃないんだからね。
私がこうなったのは、自分のせい。ごめんなさい、心配かけて。
でも、私のせいで三成くんが辛くなるのは…私も辛いから…」
そういうと、溢したお茶を拭いていた三成の手に、自分の手をかさねる。
『愛様…。
私は、一緒にいながら、あの様な目に様を合わせた事が腑甲斐なくて…。
もし、あの時愛様を失ってしたらと思うと、生きた心地がしないのです』
そう言うと先程まで見せていた辛そうな顔をする。
「生きてるから…私」
そう言うと、急に褥から出て、三成を思いっきり抱きしめた。
急に抱きつかれ、驚く三成は両手の行き場を失い空を切っている。
「生きてるから、もうそんな顔しないで。
ありがとう、いつも私を見ていてくれて。
私、三成くんがいたから、今日まで不安でも此処で生きてこれたよ」
その言葉を聞いた三成は、行き場のなかった両腕を
そっと愛の背中に回す。
『ありがとうございます。生きていてくれて。
これからも…』
愛に回した腕に力を込める。
『これからも、私に見守らせてもらえますか?
私は、愛様のいないこの世は、どうやら考えられないみたいです』
三成が愛の耳元で囁く。
愛の胸はドキンと震えた。
(あぁ…私…
三成くんのこと、弟や幼馴染なんて思ってなかったんだ…
ずっと、こうされたかった…)
三成の羽織を作っていた時を思い出した。
三成の笑顔だけを毎日考えて作っていた数日。
反物屋に褒められたかったんんじゃない。
三成に喜んで貰えれば良かった。あの笑顔だけを貰えれば。
「三成くん…ありがとう。私も、ずっと三成くんと一緒にいたい」