第4章 恋の試練場
愛はニッコリ笑うと、
「旦那様のこと、愛してらっしゃるんですね。
羨ましいです!あ、そうだ…」
そういうと、まだ作りかけのものから、女中が選んだ物と同じものの色違いを手に取る。
赤い生地に、黄色の格子柄が織り込まれたものだ。
そこに、練香を入れ仕上げる。
「宜しければ、こちらもお持ちください。
旦那様と色違いです!」
そう言うと、赤い香袋を手渡す。
『宜しいのですか?2つも頂いてしまって…』
女中が申し訳なさそうに愛を見る。
「いいんですよ。いつも私の我儘ばかり聞いていただいて、
これ位じゃお礼にもなりませんが…
ぜひ、お持ち下さい」
女中はその言葉に痛く感激した様子で、愛の手を両手で握り、
『ありがとうございます、愛様!
大切に使わせていただきますね』
そういうと、手を離し、早速自分の分を帯留めに括りつけた。
『本当にありがとうございます、きっと主人も喜びます!』
と、笑顔で礼を言い去っていった。
(あんなに喜んでもらえるなんて、作った甲斐があるなぁ。
羽織が出来上がったら、三成君も喜んでくれるかな)
そんな事を思いながら、残りの袋に練り香を詰めていく。
自然と顔が綻び、楽しそうに仕上げていく愛を、
廊下の反対側から見ている者がいるのだが、
集中している愛は一向に気づく気配はなかった。
女中とのやりとり中も、ずっと見られていたのだが…