第72章 能楽
「この海ね、小さい頃に一度だけ家族と来た事があるんだ。」
波打ち際に人形を描いていく。
「もう、余り覚えてないけど…あの時も私はこんな風に笑ってたのかな?」
ざざっと寄せては返す波に、人形が消されていく。
「?」
「薬研…私は‥」
そう言い掛けた大将と俺に、予想していなかった大きめの波がぶつかる。
おっと!?
「つっめたぁぁっ!!!?」
「ぶっは!?あはは、大将ずぶ濡れだぜ!!」
冷たい冷たいと叫ぶ大将を引っ張り上げて後ろへ下がる。
俺は間一髪後ろへ跳ねたから足だけで済んだが、大将はご覧の有り様だ。