第68章 海風
「辛い事を思い出した時は笑わせてやる。悲しくなりそうな時は驚かせて忘れさせてやる。…昨日も言ったろ、俺はきみが好きだ。」
すっかり冷えてしまった手を握って、指先に口付ける。
「きみを助けたい。無意識かもしれないが、今朝も浮かない顔をしてたろ?…きみのあんな顔は見たくないんでね。」
「つ、るまる‥」
もっと俺も頼ってほしい、例え俺の我が儘だとしても、きみに必要とされたいんだ。
風に流された黒い髪を耳に掛けて、唇に口付ける。
「ん……っ」
はっ、と口から漏れた息がまた白くなって消えた。