第92章 夜桜
「じゃあ加州、乱ちゃん、行ってくるね!厨へ行って、用意出来てそうだったら居間で待っててもらえる様に言っておいてくれるかな?」
「うん、俺に任せて!」
「皆にも言っておくね、行ってらっしゃーい!」
薄手のジャケットを羽織った主ちゃんが手を振る。気付けば夕暮れ時、すこし冷たくなった風が、開いた玄関の扉から流れ込んだ。
「その城跡までは遠いのかい?」
「ん、ちょっとだけね。」
「‥はい。」
差し出した手を見て、きょとんとした顔で見上げる。今でこれだけ涼しいんだ、そこへ着くまでにきっと冷えてしまうからね。
「ちゃんと手が繋ぎたいなぁ?」
「うんっ。」
久しぶりだね、と笑いながら触れた細い指をぎゅっと握り直す。