第102章 ある日の山④
俺たちの冠番組のデスマッチコーナー。
そこで智くんが回答した一言
『たまごスープ』。
その直後、メンバーやゲストさんから‘’可愛い”の声が飛び交った。
その場にいた誰もが。
そしてきっと、お茶の間の皆さまも。
みんなみんな、同じように思ったことだろう。
大野智が『たまごスープ』って言うだけで、どうしてこんなにも可愛いんだろうって。
そうだよね。
知ってる、知ってたよ。
あなたが『たまごスープ』が好きなこと。
密かな楽しみでもあるんだけど…
智くんはね、たまごスープを食べてる時の姿も可愛いの。
猫舌な智くんはスプーンで掬ったスープに、これでもかってくらいフーフーと息を吹きかける。
冷めるの待ったらいいのにって思うけど、温かいうちに食べたいんだよね。
そしてもういいかなってタイミングで、おそるおそるスプーンをくわえる。
だけど、まだ冷まし足りなくて「あちっ」「あつっ」って何度も口から一旦離すんだ。
スプーンには、たまごとワカメが乗ったままでさ。
だから結局のところ…
あなた、一口食べるのに結構な時間をかけてるよね。
本当に可愛いくて、ずっと見ていたいくらい。
収録した内容が放送されたのは、俺の誕生日で。
嬉しいことに、智くんからお誘いがあった。
「翔くん、誕生日祝いしてあげる。何か食べたいものある?」
そんなの、もう決まってるし。
「たまごスープ」
「………えっ?」
随分と間があいた、強めの‘’えっ”が返ってきた。
「たまごスープがいいな」
もう1回言った俺に、智くんが首をかしげる。
「誕生日だよ?」
「うん。誕生日だから、智くんとたまごスープが食べたい」
「翔くんがいいならいいけど…ミネストローネとかクラムチャウダーじゃなくていいの?」
「うん。たまごスープがいい。欲をいえば…」
「ん?」
「智くんと向き合って食べたいです」
「んふふ。いいよ」
…ほらね、無邪気だし。
あなたはなーんにもわかってないんだから。
そんなところも
「大好き」
「ん?なんか言ったか?」
「ナイショ」
智くんが『たまごスープ』って言うだけで。
智くんが『たまごスープ』を食べてるだけで。
その空間には、ほっこりした優しさが染み渡っていく。
END