第67章 ある日の山①
「翔くん、ちゃんと聞いて?」
そう声をかけると、翔くんは布団から顔だけ出して潤んだ瞳で俺を見た。
「忙しい翔くんのスケジュールをね、翔くんのマネージャーが必死に調整してくれてさ。明日1日だけだけど、何とか休みが取れるように動いてくれたんだよ?」
「うん、わかってる。わかってるけど…」
「それにね、翔くんの中に入れたの座薬でしょ、薬だよ。異物じゃないでしょ」
「違うもん。智くんじゃないものは異物だもん」
「うーん…おいらじゃさ、翔くんの熱は下げてあげられないんだよ?だからね、座薬のさとくんが代わりに翔くんの中に入ってくれたんだよ?」
「座薬のさとくん?」
「そうだよ。座薬のさとくんは異物なの?」
「…異物…じゃない…」
「そうでしょ?」
「うん」
「それにね…おいらだって本当は翔くんの中に入りたいんだよ」
「えっ…」
「それにはさ、翔くんの熱が下がらないとね…無理はさせられないから」
「うん…」
布団の中から、そろそろっと出てきた翔くんの手。
俺はその手をそっと握った。
「ほら、こんなに熱いし」
「だって、まだ座薬のさとくんが中に入ったばかりだもん」
「翔くんの体調が良くなったらさ、おいらをいっぱい受け入れてね」
「もう…そんなこと言われたら、熱が下がるどころか上がっちゃうよ…」
照れたように言うから、愛しさが増すんだ。
それに…
座薬に“さとくん”って名前をつけただけで、異物じゃないなんてさ…可愛すぎるでしょ。
「あの…智くん。昨日は…ごめんね、ありがとう」
「ううん。熱が下がって良かったよ」
「うん」
「それに…可愛い翔くんが見れたから」
「風邪ひいてる俺が可愛いの…?」
ちゅっ。
「んふふ。翔くんはいつでも可愛いよ」
END