第57章 好奇心の行方
きっかけは、僕が小学4年生の時だった。
その日は土曜日の夜で、両親と1つ上の兄・智くんと一緒に家族4人でテレビドラマを見ていた。
ストーリーの流れで出てきた、男女のベッドシーン。
男の人が女の人の首から鎖骨辺りに顔を埋めて、小刻みに頭を動かしている。
女の人は目を閉じて、口を時々パクパクさせていた。
初めて見る光景にドキドキし始めた頃、
「ほら、早く部屋に戻りなさい。」
母さんが慌てたように、僕と智くんの肩をポンと叩いた。
父さんは少し前のめりになって、画面を見ていた。
「翔くん、行こ。」
「あ、うん…。」
僕はまだ見ていたかったけど、仕方がない。
智くんの後について、渋々部屋に戻った。
僕と智くんは同じ部屋を使っている。
智くんが2段ベッドの下で、俺が上。
「おやすみ。」
「おやすみ。」
俺はベッドに入ったものの、さっきの男女のシーンが頭から離れなくて、なかなか寝つけないでいた。
右向いて左向いてを何度か繰り返す。
その度にベッドがミシッミシッて音がする。
下で寝ている智くんに悪くて、寝返りを打つのをやめた。
「翔くん…眠れないの…?」
智くんの優しい声が聞こえた。
「うん…。ごめんね、ミシミシしてうるさかったでしょ。」
「ううん、大丈夫。」
「智くんは眠れそう?」
「ん~っ、どうかな。」
「あはは。何だよ、それ。」
「んふふ。」
「ねぇ、智くん…。ちょっと話したいから…そっちに行ってもいいかな。」
「あ…うん。いいよ。」
「ありがとう。」
俺はベッドの梯子を降りた。
そして、智くんがいるベッドに背を凭れ、足を投げ出して床に座った。