第8章 ここにいるから
翔くんは、今日もスケジュールがつまっているらしい。
頑張りすぎないで
なんて、本人には言えない。
どんな仕事にも全力投球で、手を抜くなんてできないことわかってるから。
でも、おいらにもできることはあるんだ。
“♪♪♪♪♪”
翔くんからのメール着信音が鳴った。
おいらはメールを開く。
『今夜、貸してね。翔』
んふふ。了解だよ。
おいらは冷蔵庫からつまみを出した。
“♪♪♪♪♪”
着いたみたいだね。
「ごめんね、遅くに…。」
「んふふ。お疲れ様。」
脱いだ靴をきちんと揃える翔くんに、育ちの良さを感じる。
気心知れた仲でも、こういう所を疎かにしないのはいいなって思う。
ビールも用意して、二人でテーブルについた。
「智くん、これ…。」
「うん、赤貝。翔くん好きでしょ。」
「ありがとう、嬉しい!うんめぇ~っ!」
リスみたいに頬を膨らませて、もきゅもきゅ食べてる。
んふふ、可愛い。
「智くん…。」
翔くんの声がする。
おいらが両手を広げると、翔くんは遠慮がちにおいらの肩におでこをくっつけた。
翔くんを優しく抱きしめて、頭と背中をポンポンする。
おいらにもできること。
いや、違うな。
おいらにしかできないこと。
滅多に弱音をはかない翔くんが
甘えられる相手が
おいらだけなこと。
ほらね、おいらの左肩がジワッと濡れてきた。
END