第26章 君に触れたくて
「申し送りは以上です。」
「今日の担当は…。」
深夜勤務だった俺は、朝8時半からの引き継ぎを終えて、ロッカーに向かった。
そこには昨夜一緒に勤務していた大野くんの姿が既にあった。
「もう来てたの?早っ。」
「だってさ、師長にまたつかまりそうだったから。」
「あぁ。それはヤダな。」
大野くんと俺は、ともに3年目の同期になる。
1年前、大野くんは他科の病棟から異動してきた。
師長は仕事ができる大野くんを気に入っていて…まぁ、ビジュアル的にも“ドンピシャ”とか言ってる。
夜勤明けだろうが仕事中だろうが、お構い無しに大野くんに引っ付いてるのは、病棟の誰もが知っている。
院長の耳にも入ってはいるらしいけど…。
「ねぇ、大野くん。帰りにさ、ご飯食べていかない?」
「行かない。帰って寝る。」
「…だよね。」
何度誘っても、首を縦に振ってくれたことはない。
だけど、先には帰らずに俺が着替え終わるのを待っててくれるんだ。
「今日も駅前でお別れですか?」
「ふふっ、そうだけど?」
「さみしいじゃん。さっきまで一緒にいたのに。」
「一緒にって…仕事だろ。」
「大野くぅん。」
「甘えるな。俺よりでけぇくせに。」
「だって、いつも断ってばかりじゃん。」
「もう、うるさいよ。」
「フンだ!拗ねてやる。」
「はい、はい。」
俺たちは同期だけど…友達とも違くて…やっぱりただの同僚としか思われてないのかな。