第10章 拷問 ~後編~
「あ、ぁ、ぁぁ、あ……!?」
矢田夏雄は、その光景に腰を抜かしながらも、四つ這いの姿勢で、出口の方向へと進んでいた。
「「生きては帰しません。」」
私とセバスチャンの声が、重なった。
矢田夏雄は、呆気無くセバスチャンに捉えられて、元の位置まで戻された。
「お、おまえ、ら……! こんな、ことして、済むと……、ただで済むと思ってる、のか……!!」
窮鼠猫を噛むとは、このことなのだろう。矢田夏雄は、私に向かって、声を振り絞るようにして、上擦った情けない声で叫んだ。あー……。それにしても、この言い分、業腹だ。
「お前らこそ! 人の人生を狂わせておいて、よくもまァ今まで、大きな顔して生きてきたなァ!!!!! お前も! 死ね!! ……セバスチャン!!!!!!」
セバスチャンは音もなく矢田夏雄の背後へ回り込み、素手で彼の心臓をぶち抜いた。
返り血を浴びたセバスチャンの姿は、今までに見たことのないぐらいに妖艶で、総毛立つほどだった。
ふと、美沙ちゃんを見た。美沙ちゃんはもう、ピクリともしない。文字通り、物言わぬ人形になってしまったのだ。でも、もういい。この玩具も、飽きたし。後の事は、セバスチャンに任せることにして、私は自宅へ戻ろう。
「セバスチャン、死体も魂も、好きにしていいからね?」
「ありがとうございます、キリエお嬢様。」
そう言って、セバスチャンは恭しく、頭を下げた。
「あぁ、でも……。お嬢様も……」
セバスチャンはそう言って、何か言いたそうな目を向けてきた。
「何? セバスチャン……?」
どうしたのだろう? 私は、セバスチャンに向き直った。
「あぁ、いいえ。何も。」
セバスチャンはそう言って、私から顔を背けた。気になるけれど、疲れていたこともあり、深追いは止めておいた。さて、そろそろ、この復讐劇も、終わらせないと。