第10章 拷問 ~後編~
また、夜が来た。美沙ちゃんに会いに行く時間だ。美沙ちゃん、弱ってないといいけど。セバスチャンからの報告によれば、水は適当に減っているらしい。水は生命の源。しっかり飲んで、新陳代謝を良くしてもらわないと!
でも、この日の夜も、美沙ちゃんは少しだって、私からの餌を食べてくれなかった。もう、随分と空腹のはずなのに。それに、美沙ちゃん、ちゃんと食べてないからか、顔色だって悪かった。このままじゃ、ロクに餌を食べないから、餓死するんじゃないだろうか……。そんな不安が、私の胸を支配した。明日こそ、美沙ちゃんにはちゃんと食べてもらわないと……!
そして迎えた、あくる日の夜。私は昨日と同じように、放置プレイしていた美沙ちゃんの元へ行く。でも、今日はなんだか様子が違った。いつもは私を睨み付けてくるのに、今日は表情のない目で、私を見つめている。
「どうしたの、美沙ちゃん……?」
返事は無い。まぁ、よくよく考えれば、美沙ちゃんは恐らく丸3日以上、何も食べていないのだ。空腹も限界状態なのかもしれない。
「昨日は、パンケーキで食べてもらえなかったから、今日は違う餌にしてみたよ。見て?」
そう言って、私は美沙ちゃんの前で、使い捨て容器にレトルトのシチューを入れた。美沙ちゃんは、その様子をじっと見つめている。
「ん? あれ? こういう家庭的な味の方が、好きだった? 昨日も、パンケーキなんかじゃなくて、コッチの方が良かった?」
美沙ちゃんは返事をすることは無いけれど、ごくりと喉を鳴らした。……なるほどね。本当はずっと、やせ我慢をしていたってことか。ふぅん。
私は、嗤いだしそうになったけれど、鋼鉄の精神力で、それを堪える。
「今日も、制限時間は30分ね。食品が傷むとダメだから、残ったら持って帰るよ。あと、これ、ミックスベリージュース。ミネラルウォーターばっかりじゃ、飽きると思って……。」
私は、やはり使い捨ての、深めの容器に、ジュースを注いていく。
美沙ちゃんは、無言でそれらをじっと見つめている。その瞳は、暗く濁っている。
「えっと……。好きじゃなかった? なら、捨てるね。それに、私の事、嫌いだよね……? だったら、もう帰るね。さようなら……。」
そう言って私は、これ見よがしに、出したばかりのシチューとジュースを片付け始めた。