第1章 ・始まり、再々
大音量で20××年オリンピック男子バレーボール金メダルおめでとうございます、という声が響く。
カメラのフラッシュがそこかしこで瞬く、詰めかけた報道陣が我先にとマイクや録音機を向けている。並の心臓なら圧倒されて頭の中も真っ白になりそうな光景だが段に登っている青年は眉一つ動かず堂々と立っている。
誰も寄せ付けない絶対的な王者の風格、青年からはそれが漂っていた。
そんな中でも報道陣からは色々質問が繰り出されて青年は一つ一つ真面目に答えていく。
何かと盛り上がる中でやがて誰かが言った、最後に牛島キャプテン、一言お願いします。
青年はやはり表情をまったく変えずに口を開いた。
「導き支えてくれた皆様に感謝します、監督、コーチ、チームメイト、他関係者の皆様、両親と祖母、そして」
そして青年は言った。
「最愛の妹に。」
ありがとうございましたと声が響く。
牛島若利は礼をしてノシノシとその場を去る。だんだんと人が少なくなって行く中、タッタッタッと誰かが走り寄ってくる。
「若利兄様。」
若い女性、年齢は正直よくわからない。成人しているようにもまだ一歩手前にも見える。
「文緒。」
そんな女性に呼びかける牛島若利の顔はごくごく微かに笑っていた。
両親を亡くした遠い遠い親戚の娘を妹としてもらった。いつの間にかその娘を妹としてだけでなくもっと深く愛するようになった。
そんな少年時代、思い返せば本当に色々あった。
さて、その色々の物語は3度目の始まりを迎える。
まだ醒めない夢にまたしばらくお付き合いいただきたい。