第2章 引力には逆らえない。side.O
「バレー頑張って下さい、応援してます…っ」
「うん、ありがと~」
登校途中、こうして何度か他校の女の子達に呼び止められては赤やピンクに可愛くラッピングされたチョコレートを貰う。
その度にさりげなく隣のちゃんの様子を伺えば小さく唇を噛み締めているんだ。
そしていつもは簡単に肩にかけてるスクールバッグを今日は両手で大事そうに抱えてる。
それじゃその中に大切な何かが入ってるって誰が見てもわかっちゃうよ。
しかも今日、バレンタインの日に大切な物と言ったらそんなの一つに決まってる。
「はぁ……」
ちゃんから聞こえた小さな溜め息。
俺はそれを聞き逃さない。
もしその溜め息が、俺に対する嫉妬だとしたら。
こんなに嬉しい事はないよね。
そう思って一人でニヤニヤしてたら岩ちゃんの蹴りが飛んできた。
「いった!!何すんの?!」
「顔がうぜぇ」
「ヒドイ!」
岩ちゃんの機嫌がよろしくない理由はわかってる。
だって俺と……同じだもんね。
でも俺はズルいから岩ちゃんのちゃんへの気持ちには気付いてないフリをしてる。
昇降口に着けば今度は後輩の女の子達に囲まれる。
岩ちゃんはもううんざりした顔をしてるけど、俺は笑顔を崩さない。
ちゃんの姿を探すと勝手に先に行こうとしてる後ろ姿が目に入る。
え?
まさか、その鞄の中身…俺にじゃないワケ?
「と、おる…?」
「恵ちゃん一限空きでしょ、ちょっと俺に付き合って」
「え…?え?」
「決まりね、じゃ岩ちゃん後よろしく~」
「えっ!?あ、ちょ…!徹っ!」
そんなの絶対にダメだ。
小学生までは俺と岩ちゃんに平等にあったチョコレートも中学からはパタリとなくなった。
他の子からたくさん貰えるからいいでしょって言い出してから五年、一度もくれなかった。
だから高校生最後のちゃんのチョコレートが俺でも岩ちゃんでもない他のヤツに行くなんて絶対にダメだ。
強引に彼女を連れ出してその場を足早に立ち去った。
後で岩ちゃんに怒られたってそんなの気にしない。