第7章 君が唄うラブソング ※【月島蛍】
蝉時雨が響く、夏休み真っ只中。
東京から新幹線で移動してきた僕たちは、ホームに降り立った。
帰省のピークの頃合いというだけあって、構内は人でひしめき合っている。
「はやぶさってホントに早いんだねー。東京から一時間半だよ?」
初めて乗ったという、鮮やかなグリーンの新幹線。乗車する時点でテンションが上がっていた奈々子さん。
混雑なんてものともせず、車窓の変化を楽しみ終始声を弾ませていた。
一人で帰省するときに比べ、確実に退屈しない。
ここからは路線を変え、仙台からは遠く離れる。
景色はコンクリートの波から、畑や田園、山々が広がる緑へ。
更には駅からバスを使って、ようやく僕の育った街に辿り着く。
「遠いでしょ。疲れた?」
「ううん、全然」
顔を綻ばせる奈々子さんにホッとしつつ、兄ちゃんにメッセージを送る。
夏休みに入りひと足先に実家に帰っているもんだから、朝からスマホに届くLINEがうるさかった。
新幹線の時間だとか、忘れ物はないかとか。
極めつけは「まさか、奈々子ちゃんにフラれたなんてことないよな!?」とか。
ないよ。縁起でもないこと言わないでよ。
まあとにかくそんな感じにソワソワしてるのは想像つくから、到着できそうな時間を返信しておいた。
外の世界は熱気と湿気で蒸すものの、広がるのは昔から慣れ親しんだ風景。
向日葵の咲く野原を横目に並んで歩いていくと、遠目に右往左往している影が見える。
この暑いのに…倒れるよ?