第5章 glass heart【赤葦京治】
焦って弁解している横からプッと吹き出す声がする。
振り返ったところには、肩を震わせる月島くんがいた。
「焼肉弁当はないわ」
あ、笑った!?
さっきまでの無表情を崩せたことがちょっとだけ嬉しくなる。
「だって男の人はお肉好きでしょ?」
「決め付け良くないよね。彼氏の好きなもの、リサーチしとかない?フツー」
ムッ!でも言い方が憎たらしい!!
「じゃあ、月島くんは何入ってたら嬉しい?」
「普通に卵焼きとか、唐揚げとか?」
「唐揚げ肉じゃん」
「ハァ?屁理屈でしょ。キミがガサツってこと、よくわかったよ」
「私も。あなたが意地悪だってことは、よーくわかりました! "ツッキー"!」
嫌味も込めてテツさんたちの言うあだ名で呼んだ途端、綺麗な顔が歪む。
「ツッキーってやめてくんない? "汐里" 」
「そっちこそ。呼び捨てしないでよ」
「何だ何だぁ!?おまえらすっかり仲良しじゃ~ん!」
テツさんがからかうように間に入ってくる。
「焼肉弁当の何がダメなんだ!?俺ならすんげー嬉しいけどなぁ!」
ああ…光太郎さんって、ほんっといい人。
「汐里ずるーい!私もツッキーって呼んでいい?」
「え…嫌だけど…」
「私も私も!ねぇツッキー、デザート何食べるー?」
月島くんは女子二人に腕を掴まれ、連行されていく。
ふーんだ!顔が綺麗でも、意地悪言ってたら台無しだもんね!
心の中で思いっきり舌を出す。
私ももうデザートにしよっと。
メニュー表を探してキョロキョロしてる横から、赤葦さんがそれを手渡してくれる。
「これ?」
「あ、ありがとうございます」
カクテルを飲む横顔は相変わらずの無表情。
笑い飛ばしてくれたテツさんや光太郎さんと違って、何を考えてるのか全くわからない。
楽しい席で月島くんと言い合いなんかしちゃって。
気分悪くさせたかな…。
「あの…、さっきの…」
「え?」
「すみません、空気悪くしちゃって…」
「…ああ、別に。月島が仕掛けたのが悪いし」
「はい…」
「弁当、」
「え?」
「作ってるの?弟さんの」