第4章 甘いキスを教えてあげる ※【大将優】
シンクの上には、あの日買ったペアのマグカップ。
湯気が立つそこには、作りたての甘いココアが中を満たしている。
「わ!嘘です、冗談!飲みたい!」
紗菜ちゃんの両手が俺の腕を掴んで、ココアを取り上げようとするのを拒む。
「しょうがねーなぁ…」
チラリと見下ろした彼女にココアを差し出そうとして、
「やっぱやんない」
赤いマグカップの中の甘い飲み物をひと口含んだ。
「もう、意地悪!優さんてほんと子ども!」
「男はいつまで経っても子どもなの!」
むくれる紗菜ちゃんの頬を、ムギュッと抓む。
それからマグカップを元の場所へ置くと、紗菜ちゃんの腰に手を回して引き寄せた。
「ねぇ、紗菜ちゃん。ココアって冷めても美味しいよね?」
「え?…そう?」
「そう。だからさ…ひとまず、イチャイチャしよっか」
返事もないうちに、ちゅっ、とキスをする。
「ん…でも…ここで?」
「ここでも、ソファでも、ベッドでも。どこがいい?」
「じゃあ…もう、ここで」
紗菜ちゃんはじっと俺を見つめ、小さく答えた。
「ねぇ、優さん…キス、して?」
「いいよ。どんなキス?」
「甘いキス…」
瞼を閉じてキスを待ち構える姿が、堪らなく愛おしい。
まだ恥ずかしがり屋なのは変わっていない彼女。
ディープキスのことを、 "甘いキス" っておねだりするところも可愛い。
3年前の俺は、まさか紗菜ちゃんが "運命の人" だなんて、思いもしなかった。
またこうして巡り会えたこと。
紗菜ちゃんが俺にとって、一番大切な女の子になったこと。
そんな大切で愛おしい紗菜ちゃんが、俺を好きになってくれたこと。
幾つもの奇跡に幸せを噛み締めながら…
俺は紗菜ちゃんに、甘い甘いキスをした。
【 end 】