第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
木兎たちと別れた後。
タイミングを謀ったように、電話があった。
話があるから、と駅前のカフェを指定され、俺の足は今そこへ向かっている。
丁度いい。あいつの気持ちだって、あいつ自身から聞いていない。
この先梨央とどうなるかは、あいつ次第だ。
カフェに到着し、店内をひと通り見回す。
程々に客が埋まった中から窓際に奴の姿を見つけ、俺はそのテーブルへと近づいた。
「よぉ」
切れ長の瞳が俺を見上げる。
「ああ…。悪い、呼び出して」
憎まれ口を叩くわけでもなく、大将とこんな風に向かい合って話をするなんて。
今までの俺たちからは、考えられない。
しばらくは飲み物に手も付けずにお互い黙り込んでいたが、先に大将が口を開いた。
「梨央さんに、全部聞いた。ていうか、俺が聞き出した」
「ああ」
「キスは俺が勝手にしただけだから。梨央さん責めんじゃねぇぞ」
「……」
「あと、謝らねぇからな」
「あ"?謝れよ。俺の彼女だろうが」
「ああ、"まだ" 、"辛うじて" お前の彼女だな。でも梨央さん泣かせた奴に謝りたくないね」
クソ…こいつ相変わらずムカツクな。
「誕生日…一緒にいたって?」
自分でも声が低くなったのがわかる。
俺は初めての誕生日を一緒に過ごせなかったのに、よりによって大将といたなんて。
そりゃ、腹立つだろ。
「誤解すんな。梨央さん熱出してフラフラだったから、家まで送ったんだよ」
「え?」
「体調壊したのはお前のせいでもあると思うけど。最低だな」
「じゃあお前は、体調悪い梨央に迫ったワケだ。お前も最低じゃねーか」
ピクリと眉を動かした大将は、静かに頷く。
「そうだな…」
それきり黙り込んだ大将から視線を外し、ひとつため息をつく。
今のやり取りでよくわかった。
大将にとって、梨央は遊びとかじゃなく…
「好きなんだな?梨央のこと」
「好きだよ」
その場に響いたのは、躊躇いなどない、男の声。