第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
幸せで心地いい、倦怠感。
シャワーも浴びたいけど、まだもう少しこのまま寄り添いたい。
「梨央ちゃん、ここ」
シーツの端を捲り、隣へ誘う。
抱き締めて、梨央ちゃんの匂いを嗅いで、もう少しキスしたい。
梨央ちゃんは少し照れながら、甘えるみたいに俺の腕枕にすり寄ってくる。
ああ……すっげ可愛いな。
今俺、ぜってーヤバイ顔してる…。
「あ。そう言やあ…」
「うん?」
「梨央ちゃんに禁止したいことがありまーす」
「……なに?」
梨央ちゃんは不安げに俺を見上げてくる。
んな顔すんなよ。
何も難しいことじゃねーから。
「もう、研磨に抱きつくの禁止な」
「え?」
「自分の彼女が他の男に抱きついてんの見て、面白いワケねーだろ?」
梨央ちゃんはパチパチ瞬きを繰り返す。
「"彼女"…」
「あれ?違うの?俺だけその気だったらスゲー恥ずかしいわ」
「ち、違わないけどっ!てっちゃんも……ヤキモチなんて、妬くんだ…」
何か意外そうな梨央ちゃんの顔。
俺がどんだけ梨央ちゃんを独占したいか、全然
わかってねーのな。
頬に手を当てフニフニ擦って、そのまま唇にキス。
柔らかくて、甘くて。
既にもう、虜だ。
「梨央が触れていいのは、俺だけ。梨央に触れていいのも、俺だけ」
「……」
「わかった?」
「……うん」
顔を綻ばせて小さく返事をしたあと、嬉しそうに俺の胸元に寄り添い、頬ずりしてくる。
そんな彼女を逃がさないように、俺はふたつの腕で抱き締めた。
梨央ちゃんは俺の心の中にずっと棲んでいた。
初めて出会った夏の日から何度もの桜の季節を越えて、今日、この日まで。
近くて遠い場所にいた君が、今やっと、この腕の中にいる。
梨央
覚悟しとけ?
もう二度と、遠い場所になんて行かせねぇからな―――。
【 end. 続編へ… 】