第10章 スイートセンチメンタル …3月14日
「––––……」
文庫本のページがゆっくりとめくられる、乾いた微かな音が鳴る。
彼の頬をなでる風は暖かく、空気は澄み、
自然の花々の匂いが満ちている。
視界一面、見渡す限りの花畑の真ん中には
一つの医療用ベッドが、遮光天蓋を備えつけられて鎮座していた。
真っ白の清潔なカーテンと、天蓋の天井。
ひとたびここを訪れれば、夢の中なのだと本気で錯覚するような場所だ。
ベッドに座りながらも薄手のシーツを膝に掛け、本を捲る。
「三島幹部……」
「……嗚呼、上橋。
そういえば単独任務お疲れさま」
三島が菜穂子の声に手をとめた。
彼のゆるりと結われた髪が揺れる。
上橋と呼ばれた女性が、三島のその言葉に頬を緩めた。
鳶色の細くて綺麗な赤茶色の髪を持った、絶賛恋する乙女である。