第49章 好きになったもの。後編…中原中也誕生日 4月29日記念
結婚願望や恋愛観念について、アテにならないのは三島も太宰も同じだった。
この2人は極めて思考が似ていて、それなのに正反対で、世界がひどく食い違っているように思える。
こと恋愛に関しては、女性こそが上手であるという格言通り……
1人思い悩むだけでは、猜疑心を延々と育てるだけだ。
三島は背に力を入れ、僅かに弾みをつけて扉に掛けていた体重を離すと、新郎に言った。
『それでは、僕が君に道標を示しましょう。
新婦を損得勘定抜きに愛しなさい』
愛とは惜しみなく与えるものだと誰かは言った。
『そして愛する己を客観的に見て、引きなさい』
所謂 押して駄目なら引いてみろというあれに過ぎないのだけれど、1年後、三島の元に1通の葉書が渡される。
両親の愛に挟まれた赤子の、家族写真。
あの時三島に胸の裡を苦しげに吐露した彼の、虚飾のない笑顔がそこにある。
長い間、その写真を己の病と消毒の香りに咽せそうな温室で眺めていた。
––––『これからプラスになるかもしれませんよ』。
三島にとって、太宰治は話題の事欠かない人物だった。
勿論、首領も尾崎幹部……紅葉姐さんも中也も、真冬も……三島にとってプラスをもたらした人物である。
「友だちって……いいものだね」
「まあ、私にとって友だちっていうのは、私より先に死んでしまう人のことを言うのだけどね」
おい、という瞬間的な反応はさておき。
織田作も真冬も、己の指の隙間から零れた。
安吾とは間接的に冷え切り、
真冬だってマフィアにいた頃隣に寄り添ってくれたの彼女では無くなってしまったけれど。
「中也は長生きしそうじゃない? 友だち枠じゃないにしても」
相棒の中也とは親友っていう次元じゃないと言い切った太宰は、三島の言葉に「嗚呼、そういえばさぁ」と言った。
太宰がこれ以上 三島の余命に関して
下手な相槌を打てば、なんだか現実になり兼ねない。
口慰みに、話題を逸らすために出た言葉を放つ。
「中也ってさ、真冬のこと好きだよね」