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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第8章 暗香疎影


ザッ、ザッと絨毯の毛足の長い羽毛が、踏みつけにされる音がする。


その歩調には迷いなど一切なく、踵は絨毯を削り落とすように踏み落とされる。


一直線に、この施設の中で最も豪奢な造りをしている執務室へと進む。



コツコツとリノリウムを歩き、昇降機に一人で乗り、そしてたどり着いた。




『ポートマフィア首領執務室』。


本来なら、半年以上 入室許可を待たねば見ることも出来ないような部屋だ。



その両開きの扉の前には、黒服黒眼鏡の部下たちが侍り、拳銃を携行している。




「退け。」



ひどく冷徹で、空虚で、行き場のない憤怒の篭った声だった。


いつもの人を食った態度の多い彼……太宰らしくない声だ。




その声に怯んだ見張りのその黒服たちには一瞥さえもくれず、

ドアを開け放ち、無遠慮に首領執務室へと入る。




彼はいた。



このだだっ広い首領執務室に設えられた、執務机に一人 就いて、

天板に置いた腕を組んで、顎を乗せている。




その彼のそばには––––太宰の探す、彼女の姿は見えない……




「やあ、太宰君。」


森は、曖昧に笑っているだけだ。




「首領。私が何故ここに来たか、ご存知なのでは?」

「勿論だとも。緊急の用件だね?」


端的に太宰の問いに答える。



太宰の怒りは、確かにこの彼に向けてのものだが
それを森は理解していて尚 そう言った。




「どうして真綿を織田作に預けた」

「君の知ることでは––––「首領。」」



太宰が、森の言葉を遮った。




もしもこの場に、あの暗殺者の彼女がいたら、自分は強く窘められているだろう。

もしかしたら不敬者だと手足くらいは落ちていたかもしれない。




真綿は、私情を戦闘には持ち込まない。

いくら仲良くしていたとしても、同胞の首をその糸で掻き切ってきたことも多い。




「確かに、織田君に真綿君をしばらく貸すとは言った。

だからいなくなったのも、予想の内だろう?」




「違う。 真綿は、織田作が何も言わなくてもついていく気だった。
でもきっと、こう言われた。

––––『銀の託宣を使って、自分についてきてくれるか』と。」





首領と一幹部の駆け引きが勃発し、止める者はいない。


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