第6章 花園紳士
「久しぶり…だね」
窓から差し込んだ真昼の陽の明かりが、
その隔離された彼が住まう宝石箱を照らしていた。
「真綿。久しぶり」
同じ言葉をもう一度言ってから、『彼』は包帯まみれの手を振った。
頭に、首に、腕に脚にと
痛々しいくらいに、その肌が見えないくらいに
白い帯は巻き付けられている。
何らかの暴力沙汰になったとしても、ここまで要所各所に包帯が巻かれることも少ないだろう…
まるで、誰かに…
暗殺者に闇討ちされて、メッタ刺しにでもされなければ。
「壮健そうで、何よりだよ」
「あははっ、こんな僕の姿を見て、そんなこと言うの真綿だけだよ!」
こつこつと真綿がその病室に踏み入り、
カチャリと後ろ手にこの花園の鍵をかけた。
「由紀。」
鍵のかかった病室には、彼と真綿しかいない。
「ん? なぁに?」
成人している男のはずだが、真綿にだけ見せる笑顔は子供っぽいところがある。
今みたいに。
「怪我」
「怪我?」
すっと真綿の華奢な手が、彼の頬をなぞった。
「治るのは難しそうさね…」
「そりゃ、そうだとも。
これは僕の異能と君の異能の複合した怪我だから」
そう言って無邪気に笑った彼だが、その影の差した横顔は
真綿を、真綿だけを、強く強く切望していた。
執着という愛情を通り越し、振り切れているのだ。
「僕の異能、真綿にも効いちゃったって……特大の収穫だろうね、マフィアからすれば」
「ふむん……」
由紀という彼が、悪びれることなく笑う。
屈託無い笑顔を向けられ、こんな包帯だらけの重傷にさせた真綿が
ちょっとだけ彼のその頬を摘んだ。
「いややや」
「ふん。
何故か今の貴様の笑みは、頭にきたのだ」
「横暴だなぁ…」
彼が真綿に笑いかける。
今度は、本当の笑みで。
好きで好きで、好きな人にしか許さない表情…とでもいうのか。
彼の笑みは理性的でありながらも どこか欲望が光っていた。
「成る程。貴様の頬を摘めば治る、と…」
「ちょっとちょっと!?」