第40章 曖昧……III
「嗚呼……成る程ね……よーく判ったよ。君たちがなにを危惧しているのか。
まあ確かに、こっちが操作されたら元も子もないし」
ずず、と乱歩がココアを啜りながら言った。
「真冬の異能力だと、精々、目の届く範囲内だとしても捕捉していられるのは一人。
対象が遠ざからない、という条件付きなら十数人程度、何とかいけるかもだけれど……それに頼り切りなのはね」
失敗しない異能力––––とは言われるが
真冬のリーチから抜け出してしまえば……単に遠ざかれば、不可逆的因果は塗り替えられてしまう。
「矢ッ張り、精神操作系統の異能力保持者が必要ですかね」
「それは無理でしょ。特務課もそこまで許してくれないよ」
むしろ、真冬の異能力は最後まで温存しておきたい。
人ひとりを守るためだけに手の内を明かしてしまうのは憚られた。
「……ねェ、こっちの知り合いで良ければ……いなくもないけど?」
唐突に与謝野女医が組んでいた腕を解き、言う。
もう目は完全に冷めたようで、皆が一斉に振り向いた。
「ただ……ちょっと特殊な身の上事情があッてねェ……
其奴の事は由紀、とだけ言っておくよ。」
その名を聞いた瞬間、太宰の脳裏には嫌なものが走らないでもなかった。
真っ先に頭に浮いた名前はあの花畑の彼。
何しろ自分の知り合い……否、友人の彼の名も由紀である。
字面はもしかしたら違うかもしれないが。
それに、あの燃え盛る街で与謝野女医が言いかけていた言葉……
––––『可笑しいねェ……確かこっちの知り合いの由紀も……』
「……与謝野女医、もしかしてその由紀さんは
三島っていう苗字だったりします?」