第36章 此処からまた
ボーン……という昔ながらの古時計は、夜中3時を回ったことを告げて三度鳴った。
サラサラと万年筆が流暢に流れる音と、印鑑が押される音だけが響く。
こうまで来ると深夜テンションに切り替わって来るのだろうか。
「仕事……終わんねェ……」
「ま、街が燃えてしまったからね。
始末書も報告書もいつもより倍近いときた。」
ヨコハマ市ポートマフィア本部高層ビル…
中原中也の執務室で、中也と三島は急いで紙のビルディングを切り崩しているところである。
「……なあ、三島」
「ん?」
三島の綺麗な字がまた一枚と中也の方に積まれ、中也が印を押した紙を隣の机に重ねる。
ふっと中也の青い瞳が彼を映したとき、三島は万年筆を動かしながらもどこか……何かが、違う。
「……菜穂子のこと、どうするつもりだ?」
「どうって、どう?」
三島の手が止まる。
止まったのだ。
いつもならちゃんと聞いていながらも、笑って流してしまいそうなのに。
「早く返さねェと、菜穂子は手前を想っていても他の奴があいつに目ェ付けるかもしれねェけど?」
「嗚呼……それ。ちゃんと、言ったよ」
「え」
ぴたりと中也の手もつられて止まる。
「それに、他の人なんて……」
「ン?」
「ううん。」
三島が曖昧に笑って、また手を動かした。
気に入らない。
何かをその甘い顔でおざなりに隠しやがった。
判らない。
一体何を考えているのかが。
「……中也、そろそろ集中力切れちゃった?」
「……! 別に、まだやれるっての!」
説却、そろそろ菜穂子が、ここにいる三島を寝かせてやれと来るはずだろう––––––……