第34章 甘くて苦いもの
「ブ––––––
ブロッケン現象〜!?」
「そー。あの幽霊の正体だね」
ブロッケンの妖怪……そう言えば判る人もいるようで
与謝野女医が頷いた。
夜遅く、夜中12時を回った武装探偵社では
夜勤という事で、今回のこの幽霊騒動のための面子は社に残っていた。
僕の言葉に、ついて来てくれた生徒2人もソファで目を丸くしている。
2人は、今夜はこの社の来賓室で泊まってもらうことになったらしいけど……
まあ確かに、子どもにこんな夜遅く家に帰そうものなら補導されるだろうし……
「ブロッケン現象ッて、こんな幽霊みたいなこと出来るんですね……」
「端的にいうと、霧に映った自分たちの影が、幽霊に見える現象だねぇ。
つまり君達は、自分たちの影に怯えてたワケ。」
あの校舎は夜霧がひどかった。
加えて真冬も調べてたみたいだけど、ここ最近の天気からして霧が出る条件は十分、満たされていた。
僕と真冬が考えていたことはたぶん同じ。
「夜中、月の光で虹が出来ることもあるんだよ。
月虹(げっこう)って言うんだけど。
なら、夜遅くの月の光で霧にブロッケン現象が出来るのも頷けるし」
僕の言葉に、兄と妹が胸を撫で下ろす。
うん、僕たちも学校がこれで平和になったことに安心したよ。
本来なら太陽の光で出来るブロッケン現象でも、
今回は月光だったから、尚更映った影も薄くて幽霊じみたものを作ったのだろうし。
でも……
「私たちが近付けば幽霊が増えたのも……私たちが近付いたから、影も出来たってことですのね……
はぁ、スッキリしましたわ……」
「本当にね……ありがとうございました。
しかも、今夜はお世話になるなんて」
兄妹が国木田に言うと、ふっと国木田が笑った。
へえ、そんな顔もするんだ。
教え子に接するような顔。
「いや……こうするしかなかったし、そも一般人を事件現場に連れて行くなど……こちらこそ」
応接室の会話もそこそこに、机に座った僕に
与謝野女医がこっそり聞いてきた。
「……ねェ乱歩さん、真冬と太宰は?」