第32章 Vermilion Bullet ……II
「それで何だ?」
「その拠点は、とても廃れていてね。
私は一見、廃工場か何かの跡地かと思っていた。
だけど」
だけれど。
これが、一番重要だった。
「……あそこはね、病院だったんだ」
「病院?」
信号がちかちか、ずっと黄色だけを点滅させている。
この街は、公共的なものから隔離されたのか。
たしかあの合図は、予備電源による信号維持だから。
「そう。ほら、一昨日あたりに武装探偵社が警察病院に行ったでしょ?
裏手にもう一棟、すごくよく似た病院があって……私たちは見事に騙されたよね」
「嗚呼……」
国木田君が、上空の看板をみる。
スクランブル交差点まで、あと五百メートル。
「裏手に移設された新しい警察病院の跡地が、
バージンキラーが拠点にした廃病院だったんだ」
「……え?」
「これで判った?
そこで私は、要らなくなったであろう沢山の患者記録や、それらの病気に関する書物を大量に見つけてね」
実際……それらを読む、という行為は、あの場において非常に危険だと思っていた。
一人で、後ろから襲われても
本や診察簿に薄汚い床が埋まり足場が悪いと来た。
しかも異能力的なもので言ったら、
私の【人間失格】で相手を倒すというだけの力量には欠ける…………という悪天候ならぬ悪場上。
だと言うのにそれが出来たのは……
私が訪れる前にこの拠点を見つけ出して、
繭を斬って、バージンキラーをそこそこ片付けておいてくれた人のおかげ。
「あの廃病院は……元は、ごく普通の、
小児科とか循環器科とかだってある、大きめの病院だった」
あの廃病院でみた診察記録の数々。
そして……
「産婦人科だって、その病院にはあったんだ」