第31章 お花畑で会いましょう…谷崎潤一郎誕生日7月24日記念
切っ掛けとはそれ唐突である。
「谷崎君たち、夢の世界って信じるかい?」
「えッ?」
「えっ?」
ぱちぱちとまばたきを繰り返すのは、
呼び止められた谷崎潤一郎と たちで括られたナオミも然り。
対して問うた太宰はパチパチとパソコンのキーを打つ手を止め、二人を見遣った。
明るい髪色をし気弱そうな印象を受ける潤一郎と、
日本人形のように清楚な長い黒髪という清廉な印象を与える妹のナオミ。
ぱっと見、この二人が兄妹だなんて判る人はいないだろう……
本当に血縁の兄妹なのか、日夜 言及されているところである。
「いやね、ほら、この記事。
悪徳療養法のヤブ医者が逮捕されたでしょう。
この彼は、口八丁で患者を嘯き、『レム睡眠を摂り続ける事で脳が夢を見続け、代わりに筋肉が熟睡状態に入るから怪我の療法として最適』なんて言ってる」
まあ、怪我の療法云々はさて置き、
夢を見ているのがいわゆるレム睡眠であって……
脳が起きている代わりに筋肉は熟睡している。
その事自体は、医学的そして常識においても間違っていない。
だがしかし––––……
「寝溜め、という言葉を知っているかい?」
「寝溜め……ですか?」
兄妹が揃って首をかしげる。
動作までぴったりで、太宰が苦笑を漏らした。
「浅い眠りのレム睡眠は、体に溜まることはない。
でも、深い眠りのノンレム睡眠は違う。
例えば、ノンレム睡眠に入る前に、強制的に起こされたとしよう。
次の日も、次の日も、また次の日も。
ずーっとノンレム睡眠を摂らない日が続いたとしよう」
兄妹が頷く。