第27章 La Vierge…I
「上橋 ––––」
「ここに。」
しんとした幹部執務室に、そんな声だけが響いた。
かちゃんとドアを静かに開けて、菜穂子が入ってくる。
その夜、菜穂子が三島からの仕事を終えて
明日(というか今日)、また開かれる幹部会議(今度はヨコハマ本部とも画面通信をする)の用意を
菜穂子含め下級構成員達が早々に始めていた時だった。
呼ばれたならば即参上、幹部を直属の上司に構える菜穂子諸々は
寝る間も惜しみ、昼のように働いている。
……まあ、三島のあの常時 真昼間である病室に
慣れているからか、眠気が来ないということもあるのだが……
「……嗚呼、だから嫌なんだ。あの花園に生物を置くのは……」
「どうかしましたか」
「うん…… 君の睡眠不足をどうにかしようかな……とね。」
眠る前に三島はハーブティーを飲む。
ふわりと香ったその香りと
彼の眼前に高々と積まれた、今回の一件の報告書は似つかわしくない……
「もうお休みになられますか?」
菜穂子がそう問えば
三島はふっと笑って、ぱたんと斜め読みしていたファイルを閉じた。
「上橋、ちょっと出ようか」