第23章 Garden of Daydream…IV
「上橋」
「はい」
以前の私なら逃げていたという確信がある。
三島幹部の今の声に、告白の答えなんて明白に含まれていて。
でも、私はもう逃げ出さなかった。
「僕を好きになってくれても、僕は君を幸せには出来ない」
「おそばに居られれば、私はそれだけで幸せです」
変化を望んだのは私だけれど
三島幹部はそれを判っていて、現状維持を取った。
緻密な組織ほど、一つの些細な狂いは全てに影響する。
自分が変わりたいと望んでも
変われなかった現状。
ゆっくりと変えてゆくのでは駄目なのだと……
「上橋」
「はい」
するりと私は、この手を、袖から放した。
「僕は感情が欠落している。
その上、愛とか友情とかも蒸発している。
他人から摂取しないと、それこそ今回のバージンキラーみたいに、人形のようだと思う」
そんな事ない、それは禁句なのだと……
「だから、きっとすごく君を待たせるし
きっと沢山傷つけて、それでも僕は悲しくならないんだ。
そんな僕が、呑気に愛を語って––––」
私の手が勝手に動いていた。
さっきまでの恐れはどこにいった?
その手を確かに掴んでいた。
袖なんかじゃなくて、しっかりと、手を掴んでいた。
その紺碧の瞳に驚きはない。
でも、あの慢性的に蔓延っていた虚無もなかった。
「私は、三島幹部になら
傷つけられても良いのです」