第22章 白と黒の境い目…太宰治誕生日 6月19日記念
「嗚呼……君の匂いだ。
夢だと言うのに君の全てが、私の中の君と一致しているよ。
酷い夢だ。
本当に。
覚めるのが惜しい。」
肩に感じる真綿の柔らかな黒髪の感触がくすぐったい。
私は目を閉じてしばらくそのままでいた。
「覚めることが決められている夢ほど、甘くて生易しいものはなかろうよ……
なあ、治。今の治は何をしているんだ?」
「今はね……織田作との約束通りに、人を助ける仕事に就いたんだ。」
君と二人で歩く夢を見たんだ。
織田作との約束を守ったよ。
「……頑張っているのかな……治は」
「そりゃもう、いつか真綿に会える自分に、自信が持てるようにね。精進しているとも。」
「そう……」
抱きしめている華奢な肢体の温もりが
夢なのにすごく現実的で、惑わされる。
「治」
「ん?」
「誕生日おめでとうだ」
真綿の両腕が私の背に回されて、近かった香りがもっと近くなる。
生殺しだよ。
本当に酷い。
「うん……ありがとう。真綿……会いたかった……」
視界の端、景色がだんだんと裂けるように
この夢のひずみが、ほつれが見えていた。