第22章 白と黒の境い目…太宰治誕生日 6月19日記念
「––––……」
高い蒼穹を見つめていた。
彼の茶色い蓬髪を、吹き抜ける風が揺らす。
「 ! 」
ざわざわと彼の耳を、波の音が打ち
そしてハッと振り向いた。
「……やァ、真綿……久しぶり」
振り向いた瞬間にまた風が吹いて、花びらなのか木葉なのか
二人の間を流れていった。
「……酷い夢だ。
これが、私がずっと望んでいた夢だというのかい?
三島君」
「そう」
短く言った彼は、目の前の彼女がだんだんと光に溶けていって
その軌跡をなぞるかのように現れた。
「誕生日にこんな夢を見せるだなんて鬼だね、君は。」
「言いたい事は判らないでもないけれど。
この夢の世界こそ、僕の専売特許だしねぇ。」
両肩を竦めて、溶け消えた真綿のいた場所に立つ彼が
無関心そうにそう言った。