第18章 色彩
そこには、一人の人間がいた。
正確に言えば、人間のような……
人間の姿形を完璧に模したようなもの。
心臓は動き、脳も働き、正常に言葉を理解する。
国家戦略の参謀にだって負けず劣らずの頭脳を持ち、
その手はきっと、やろうと思えば何だって出来てきた。
完璧に模倣するだなんて、それは最早人間ではないのかという問題に於いて
その人はこう答える。
「……心のない人間なんてものは、機械とそうは変わらないだろう?」
良心もない、慈愛もない彼は
こうして必死になって人間らしくしている。
「だから僕は、相手のみている夢の機微を徴収することで
人間でいう感情を発生させているんだ」
と。
––––色彩が欲しかった。
何の色なのかは別段問わなくてもいいけれど、
感情を持たない彼は、何らかの一色にしか染まらなかったから。
目も眩むような、眩しい色彩が欲しかった。
花畑のような、色とりどりの、彩りが欲しかった。
(––––恋を、してみたい)
花みたいに、咲きたいところでなら力強く咲いていられる……
そんな何かが欲しかった。
(––––人を、愛してみたい)
僕自身が色を持たないのなら、色彩を持っている何かに干渉されたい。
……これが、君に出会う前の僕だ。
真綿。
––––……取り敢えず、今は上橋を追いかけなきゃいけない。