第15章 花は盛りに
「うっ……、っふ、うぅ」
掴まれた手首に熱が宿っていた。
嫌。
今すぐ来た道を戻りたい……
私ではだめですか?
そんな答え、判っていたことなのに。
「菜穂子……、三島はなァ…女にゃ全員ああなんだよ。」
「っ…そんなんじゃっ」
そんなのじゃ、誰も、誰も報われないじゃないですか……
そんなのは判り切っていることなのに。
「…三島幹部を! 本気で想う人が……
想う人がいたとして…」
かぶりを振るたびに涙が撒き散らされた。
「叶わないこと、判ってます……でもっ…」
心から、目からこぼれ落ちる涙が…
貴方の指で拭われることはない
『好き』って言ったとして
三島幹部は、いつものようにその柔らかな髪を揺らして
「そっか」って言われるだけだ。
望んだことは何も起きないままで。
現状維持に逃げることしか……
「消せない想いを、一体どこに捨てればいいと言うのですか…っ!
三島幹部への想いなのに……
他の人に向けられる訳ないじゃないですかっ……」
ぼろぼろと出てくる涙は留まることを知らずに頬を伝う。
「うぅ ––––…っ……」
好き、なんて浅はかだと
三島幹部を思うだけ無駄だと、太宰様に言われたことがあった……
「でも、それでも納得できる……訳っ、ないじゃないですかぁ……っ!」
喉に熱くて湿ったものが詰まっていた。
私の八つ当たりだなんて判っている。
それでも口をついて出てゆく言葉は、三島幹部へのものだけだ。
「あいつは……三島は、たった一人しかいねェんだ……」
いくら一人の想いが重くて大きいものだとしても
分割なんて出来ない。
中也様のその言葉で、抑えていた嗚咽が漏れ出た。