第14章 明くる日の戦士たち
「お早うだ、独歩」
「お早う、真綿」
まだ怪我の完治していない真綿が、武装探偵社に出勤した。
いつも出勤時間の九時ぴったりにはいる、理想を愛する青年…
国木田独歩が薄く微笑んだ。
夕焼け色の紐で長めの金髪を括る彼は、いつもその手に手帳を持っている。
風に揺蕩う稲穂のような鮮やかな色の髪と、琥珀のような澄んだ金の瞳。
武装探偵社の一隅、社内でも腕の立つ武術家である。
そこへ丁度医務室からも淑女が出て来た。
「おや、お早う真綿。ありゃ…まだ怪我が治ッてないようだねェ…だいぶ経つのに」
「晶か。お早うだ」
ふんわりとした濡羽色の短い髪が彼女の肩口をくすぐり
頭部には金色の蝶々が留まっていた。
白衣を纏った彼女は与謝野晶子、武装探偵社の専属医師。
(妾のあの異能力と、晶の治癒異能は相性最悪だからなぁ…)
お茶を啜りカルテを溜めつ眇めつする与謝野は、世界で見ても珍しい"治癒系異能力者"。
先に『死ぬ』という結果を与えてから殺戮を始める真綿の異能力とは、相性が悪い。
与謝野の方が不利なのだ。
「ねェ、矢ッ張りその怪我、治そうか?」
「あ〜…、否、妾もそこまで荒事の依頼を承った訳でもないさね。
自然治癒力に任せるさ。」
珍しい治癒系異能力––––なのだが
与謝野の【君死給勿】は、対象を一旦半殺しにしなければ治すことが出来ない…
不便な異能力だよと与謝野が嘆いていたことがあった。
「真綿、近くで宝石店強盗があったのを知っているか」
「ふむん? うむ、勿論だ」
国木田の言葉に真綿が資料を見やる。
商店街に宝飾店は三軒。
今回ので一軒急襲に遭い、他にもあるとすれば
連続しない訳もなかろう……
相手はただのこそ泥で、宝飾店で騒ぎを起こし、商品を奪って逃走する…小物だが、宝飾店なだけに被害額が高い。
真綿の黒瞳がすっと細められる。
「……で、これを乱歩が次襲われる店を予想したから、張り込むのさね」
「そういうことだ」
視界の端では、乱歩が「すごいでしょー褒めても良いんだよー?」と言っている。
そのハンチング帽の上から頭を二度三度なでてやれば、翡翠色の瞳が嬉々として細まった。
「じゃあ、独歩。 行こうか」
「嗚呼」
花房真綿。
世界の名を冠した、元暗殺者。
現在は––––