第13章 蹌踉めく唇を重ねて
「あぐ……っ!」
聞くに堪えない 不快で不愉快な音が響いた。
自分の目の前で怯え、死にたくないと乞う瞳。
「逃がしませんよ」
一人の、どこかの高校の制服を着込んだ女の子が
その可憐な容姿には似合わない、無骨な銃を持っている。
「……よくもポートマフィアを裏切りましたね。」
鳶色の瞳が、その男を見据えた。
どこかの花園にいる彼を彷彿とさせるような淀んだ気配。
ポートマフィアには、裏切り者への処理の仕方に手順がある。
まずは裏切り者に敷石を噛ませて
「ん、ぅぐ、が ––––ッ……!?」
後頭部を蹴り飛ばし、対象の顎を破壊する。
そして痛みに悶えて翻筋斗打つ裏切り者を
昆虫のようにひっくり返して、胸に銃を3発。
「……御免なさい。
こんな私が、誰かの生命を絶ってしまうなんて夢みたいですね。」
制服のスカートにその男の血痕が飛び散り、付着した。
数年前、私は貴方の立場にいたのでしょう。
裏切らなくても、いつでも使い捨てられ殺されるような立場。
「……でも、御免なさい。御免なさい。
私は、救われたのです。
その地獄から、救ってくださった。」
数年前。
闇市の人身売買でオークションに掛けられた私を、
名も戸籍も価値もなかった私を……
「……終わった?」
「はい。」
その部下は無表情に銃をしまい込み
自身の敬愛する上司の元へと駆け寄る。
「三島幹部。
お車を回して来ますので、少々お待ち下さい。」
「……首領から預かった任務は終了したんだ、急がなくていいから。
まずは血を落として来なさい。」
可愛い顔と、せっかく似合っていた制服が
最後の最後で台無しになってしまうよ?と彼は安穏に笑う。
「……は。 三島幹部のお時間を少々頂きます。」
「うん、どうぞ。」
菜穂子がこつこつと歩いて、蛇口に向かう。
三島に背を向けて急ぎ足で水道へと歩く、その無表情は少しずつ緩んでゆく。
(はぁ…… 優しい……不意打ちで、ぁ、あんな顔、とか。
いや、今の私の顔とか絶対緩んでて不自然……!)
ばっと両手を頬に当てる。
「………?」
三島が壁に寄りかかりながら、首を傾いだ。