第12章 孤独の剣士との因果
「っう––––…!」
急に意識が浮上して、跳ね起きた。
研ぎ澄まされた警戒心と、長年培った気配察知が
全く知らない土地で、無防備にも眠っていたことを知らしめてくる。
武器を確認した。
ない。
ホルダーに入れていたナイフとスカルペスがない。
そして着物が違うことに気付き、
ついでに怪我にはご丁寧に治癒が施してあった。
自分を助けてくれたのは有難いが、どういうつもりなのか。
恩を売っておくつもりなのか。
(……人に仕えることは慣れている…が、これは何とも…)
そも、ここまでの大怪我をしたのは久しぶりだった。
思うように身体が動かない。
暫くは肉体労働を期待されても困るだろう……
頭数には入れてもらっても結構だが…
「–––––…!」
と、そこに。
カタ、とふすまに手を掛けられる音がしたかと思うと
「あっ、起き––––」
いきなり開き、ハンチング帽を被った少年が無作法にも入ってきた。
張り詰めていた警戒心が波になり
天井や壁一面に張り巡らせた糸を手繰って 突き付けた。
「貴様。 ここの家主か?
恩が無いとは言わないが、事によっては首を刎ねる」
「うわっ!」
琴の音のような細い音が、少年の耳元で鳴り響いた。
はっきり言って仕舞えば、手負いの今の身体で動くのは少々辛い。
怪我による痛みが煩わしい。
(……だからと…戦えぬ訳ではなし。)
「ちょっとちょっと!
勘違いして僕を殺そうったって、そうにはいかないよ!」
前方の少年が鉄線にツツーっと指先を這わせた。
すっとあっさり指が切れて、滴り落ちる血。
「……すごい斬れ味。さすが、起因性異能力者」
まるでこのやり取りを楽しむように
彼の細められた 深緑の瞳がこちらを向いた。
「……糸に毒が塗ってある時がほとんどさね。
迂闊に触れるな」
「はぁい」
取り敢えず、狭い場所など、こちらにとって格好の戦場…
遅れを取ってはいけない
––––「…乱歩。 ご麗人は起きたのか?」
もう一人、落ち着いた男の人の声が
ふすまの向こうから聞こえた。