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日章旗のデューズオフ

第9章 【陸】玄弥&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



正に一触即発。そんな状態を解消したのは杏寿郎さん自身であった。次の瞬間にはパッと表情を明るくし、穏やかな雰囲気に差し代わる。視線を遠くへ投げながら、梁を震撼させる勢いで大音声を発した。
「俺との賭けに負けた事が悔しいのは良く分かった! しかし、上意下達を良しとする名前の性格を利用し、強く出る事をしない彼へ八つ当たりというのは感心しない!」
「誰がッ!! 八つ当たりだァッ!!」
負けじと怒声を張り上げる風柱殿はいよいよ片膝を立てて腰を浮かせた。私闘や喧嘩はご法度だというのに拳を震わせて今にも杏寿郎さんに殴り掛かりそうである。どうにも今日の風柱殿は血の気が多い。
自らの師が約半年ぶりに公の場へ姿を見せた事で、喜色満面の相を浮かべて焔の鬣が揺らめく様を見詰めていた姐さんも表情を一変させると、慌てて割って入って行く。
「け、喧嘩は駄目よ、喧嘩は……ッ!」
「甘露寺の言う通りだ、不死川。一先ず落ち着け。煉獄も柱へ復帰して早々、謹慎処分を下されたくないだろう」
「うむ、そうだな! 挑発してすまない、不死川!」
「るせェッ!!」
柱同士の諍いに介入するのも憚られ、気配を消して四人の背後を回り、竦めた身体を末席の座布団へ落ち着けると、それまで一切の興味を示していなかった霞柱殿が俺を振り返った。表情筋が凝り固まる整った横顔を晒し、氷のように冷ややかな瞳で射抜いてくる。
「何があったかは知らないけど、貴方は相当の粗相をしたんだね」
「……いや、それは」
「貴方が何をしたのかは興味無いよ。柱である不死川さんの精神をこれ以上、乱すなって言ってるんだ。今が大事な時なのに、彼が何時までもあのままじゃ困るでしょ。いざという時に連携を損ねたら誰の責任になるのかな」
「……俺が撒いた種なので、俺が芽を摘みます……」
「そうして」
言うだけ言った霞柱殿は静かに上座へ向き直った。小さな背中が揺れる度に黒曜の長い髪が肩から零れる。瞳と同じ色合いを持つ水縹色の毛先が静止する頃になると、蟲柱殿と水柱殿を伴った悲鳴嶼がようやく広間へ及んだのだが、騒がしい室内に少し驚いた様子を見せていて、ちょっとだけ癒された。



第陸話 終わり
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