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日章旗のデューズオフ

第9章 【陸】玄弥&実弥(鬼滅/最強最弱な隊士)



「……」
「……ッ二度と嵌められねぇようにしてやらァ」
返った亀のように犬走りへ落ちた其れを放心したまま見詰めていると、彼はその視線が未練や執着によるものだと勘違いしたらしい。俺を睨め付けながら強く歯牙を軋ませて苛立たしげに濡れ縁を降りた。
そして止める間もなく踏み付けにし、踵を回して完膚無きまでに躙ってしまう。彼の足元を一瞥すると想像よりも潰れが致命的で、酷い有様だった。素材は紛う事無く鉄なんだけれど、一体どんな脚力してるんだろう、怖。
「……風柱殿」
「テメェ、宇髄に身の上が知られたらしいなァ。本人から嬉々と伝えられて胸糞悪いったらありゃしねェ。テメェもテメェで嵌める必要が無くなったもんに固執すんなァ」
一頻り吐き捨てると鉄の嘴を蹴り散らかした。相当に虫の居所が悪いようで、広間へ戻った後は伊黒大兄の正面に敷いておいた座布団へ勢い良く腰を下ろしていた。腰ベルトを縦する日輪刀の鞘先、鐺が畳を叩いて鈍く跳ねる程だ。
「――不死川。他人の私物を破壊するなど、柱としても人としても褒められた事では無いな」
「あ"ァ"?」
そのまま胡座の内膝を土台にして頬杖を着く腐った姿に真っ直ぐな叱責を投げ掛けたのは、襖を引いて入室を果たした杏寿郎さんである。蝋燭が織り成す独特な火光の揺らめきを受けた横顔には陰影の満ち欠けが生じているが、双眸だけは相も変わらず存在感のある輝きを放っていた。
「名前に謝罪すべきだ。弁償も視野に入れた方がいい」
「……」
公明正大ゆえの繊細な鋭さを含んだ強い非難が、静寂に凛と響いた事で、柱の過半数以上が集まる空間は忽ち凍り付いた。白眼視を直接喰らった風柱殿は杏寿郎さんの様子に瞠目し、頬杖を中断する。此方も此方で腹の虫が治まっておらず、顳顬を青く泡立てていく。火に油を注がれた形のようだ。

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