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日章旗のデューズオフ

第4章 【前】悲鳴嶼&宇随(鬼滅/最強最弱な隊士)



隊士達の悲鳴や怒声――そういった喧騒から逃れるように悲鳴嶼の邸へ早々に引き篭もり、恐ろしいくらいに快晴の空を見上げながら縁側で茶を啜っていると、風呂敷を背負った一人の少年が律儀に門戸を叩いて訪ねてきた。
(アイツは……)
赤褐色の髪と瞳、そして特徴的な額の痣とくれば、柱合会議で一悶着も二悶着も起こしたと噂の例の少年――竈門炭治郎に違いない。悲鳴嶼所有の山を滅多に下りられない俺に、鎹鴉が些細な事も執拗いほど逐一報告してきたから下界に疎い俺の耳にもその活躍は及んでいる。一般隊士ながらとんでもない知名度だ。
さて、鎹鴉によれば、那田蜘蛛山や吉原で都度に瀕死の重症を負った上、次いで向かった刀鍛冶の里でも複数の上弦と散々対峙して傷を負ったとか。が、あの快活さを見る限り、怪我の後遺症もなく、動作にこれといった問題も見受けられないようで何よりだ。拍子抜けするほど毒気のない爽やかな表情をする少年じゃないか。
(……あんな身形で、強ぇのか……?)
まあ、鬼殺隊最強の男の元まで辿り着いてる時点で、類稀なる実力を備えた柱達の『稽古』を突破してきた事になる。幾度と無く死線を乗り越えた事実が神仏の導きなどと嘯かれようもんなら噴飯物だが。
そうでないなら、あんな清々しい顔でこんな所まで来れやしない。時に人間は、鬼畜生より手心無く厳しいのだから。上手いこと鍛えて渡り歩いてんなぁ、と心底感心してしまった。
(はー……良くやるわ、ほんと……)
感嘆の溜め息を吐き落とし、湯呑みの底を乾かすと、少年――竈門炭治郎は俺の真正面まで既に駆け寄ってきていた。隊服の上からでも分かる筋肉質な身体を緊張させながら、炎柱殿にも劣らない大音声を庭先に響かせた。
「初めまして! 俺は竈門炭治郎と言います! この度は岩柱の悲鳴嶼さんに稽古をつけていただきたく参りました!」
「……ああ。此処には居ねぇから奥の山へ迎え。邸の裏手に道がある。そこ入っていけば良いから」
良く通る声に内心戦慄きながら肩越しに背後を指差すと、お天道様みたいに明るい表情がもう一段階輝いた。うっ、眩し過ぎんだろ。
「ありがとうございます!」
「礼なんか良いから早く行けよ……」

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