第3章 阿散井恋次&京楽春水(BLEACH/酒宴の悪戯)
お優しい恋次が久し振りに酒宴の席へ呼んでくれたので、さぞかし自分にとって好都合な面子が揃っているに違いないと浮き足立ちながら出向けば、酷く耐え難い奴らが揃い踏みだった。なして?
俺は超の付く下戸だ。それはもう、とてつもなく弱くて、一献でも傾ければ炉に突っ込んだみたいに全身が火照りだす。そのうち記憶も曖昧になって周囲に介抱されるのがオチだから、進んで酒宴に出向く事は先ず有り得なかった。
とはいえ人の輪は恋しくて、友人に誘われれば無下にはしたくない。相変わらず酒は呑めないと予め伝えていたし、恋次も了承していたから飲酒はしなくて済むと思っていたけれど。
(――思っていたけど、駄目そう……)
過去、むりやり酒を呑ませようとしてきた連中が座敷に跋扈している様を見てしまえば、友情をぶっ壊してまでも断れば良かったと今更に後悔した。
襖を控えめに開いた格好のまま立ち竦んでいた俺を逸早く目に留めた我が友人・恋次が赤ら顔で出迎えておもむろに肩を組んできたから、その鳩尾を半ば本意気で殴り付ける事で憂さを晴らしておく。そもそも俺の拳なんてコイツには効かないけど。
「なんだ。その蚊が留まったみてえな拳は」
俺の首元に大蛇のような太い腕を回し、弛やかに締め上げて、緊張する身体をじっとりと飲み込んでくるさまとは、獲物を前にした肉食獣もかくやこそと思われた。
高身長から見下ろす弱りきった友人がそんなに惨めだったのか、恋次は酒精にとろんとしていた筈の瞳に加虐的な光を灯したかと思えば、次第に眦を細めた。
――恋次のことはすきだ。深酒さえしなければ。深酒さえしなければ恋次は至って気さくな男であるから嫌いじゃない。でも大いに酒の力を借りて調子づいたコイツは苦手だった。そういったチンピラみたいなものをあしらうのが得意ではない自分とは頗る相性が悪い。
今だって潤みに濡れた長い舌を唇のあわいから覗かせて左から右へと指し回す姿を見せられても、背が泡立たされるばかりで何も出来ずにいる。深酒は人格を破綻させるだけだと素面の恋次にさんざん言い聞かせてきたというのに、やはり今回も徒労に終わったようだ。
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