第1章 ライナー&ジャン(進撃/104期)
藺草のにおいに混じる陽だまりの匂い。緩慢な寝返りを打てば、暖められた敷き布団がぼくの右側をほんのりと包み込んだ。微睡みと覚醒を繰り返す意識が妙に五感を冴えさせる。
鼻は基より、皮膚は朝陽の熱を受けとめて熱を生み、耳は聞き慣れた古時計の時の刻みを拾い上げ、眼は薄い瞼を通して赤い血潮を陽の光に浮かせ、舌は口内のなんとも言えない渇きを舐めとった。
「おい」
「んー……もうちょっと……」
昨夜は遅くまで勉強していたからまだ泥のように眠かった。同居人の彼にはそれとなく伝えておいたはずなのに、無体にも午前中の講義が空いているぼくを朝一から起こそうというの? 非難に喉を震わせたつもりが、口が思うように回らなくてむにゃむにゃ言った。少し恥ずかしい。
「あー……。悪いが起きてくれ。サシャとコニーが朝飯をねだって堪らないんだ」
「さしゃとこにー……サシャとコニー……」
揺すられる肩の優しさを思えば、枕元に踞る人間の申し訳ないという気持ちは充分に伝わってくる。けれど、ごめん。本当に眠いんだ。間取りのいい部屋には陽気が嫌というほど充満するし、鳥の囀ずりも木の葉の擦れる音も、何もかもが気持ち良い。そこにきてゆったりと体を揺すられれば直のこと眠りに誘われていく摂理を訪問者は知らないんだ。
「ん、きもちいから、まだ、むり……」
「っ、あのなぁ……ったく。いいか、今から三つ数えるうちに目を覚まさねえと、お前の、ケツに、俺の、ちん――」
「お、おおお起きますっ……!」
目が開かなかったけど、そこは勘弁してくれるだろうか。痺れるような低い声で紡がれる細切れの台詞を内耳に直接吹き込まれれば、当然ながら貞操の危機を本能が察した。だから腹筋を総動員して上半身を跳び起こせたことを一先ず誉めてほしいところだ。
寝起きをがっつり見られている恥じらいが徐々に沸き立って彼から顔を背けつつ欠伸をすれば、何がそこまで彼を駆り立てるのか、ぼくの顎下を指先で擽って悪戯してきた。防衛本能で反射的に顋が閉じてしまってまともな文句も言えなかった。為されるがままだ。寝起きはどうにもぼうっとしてしまう。
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