第18章 【拾伍】炭治郎&炎&水(鬼滅/最強最弱な隊士)
さて、三人を送り出したところで本格的に約束の善哉を拵え始めなければ。北側の納戸の奥に安置していた三貫の餡子、栗と薩摩芋の甘露煮を前に、改めて隊服の袖を捲り上げて気魄を整える。
(餡子の様子は……っと)
密閉性の高い厚手の陶器の壺口から封と木蓋を外せば、姐さんから譲り受けた艶やかな粒餡が顔を覗かせた。保存が考慮されて通常より高糖度で炊かれていたし、俺も定期的に火入れ管理をしていたので余分な水分は飛んでいる。充分な鮮度が保たれた餡子は書いて文字の如く見事な小豆色で、惚れ惚れするほどだ。
(おはぎを作るっつって自分で小豆の渋抜きした時は、豆の香りを残す為に一度煮るだけで良かったけれど……)
その手の配慮も姐さんは完璧なのだ。どのような料理にも適し易いように必ず二度の渋抜きが済んだ餡子を譲ってくれる。小匙分掬って舌に乗せれば、小豆特有の収斂味が完全に抜けた円やかな口当たりは不変で、自然と眦が緩んだ。改めて確かめるまでも無かったな。
そのままおはぎにしても滑らかな舌触りに成って良し、簡易的にお湯で割って汁粉にしても香りが引き立って良し。最高級の食材として仕上げられている事に「流石」と言う他ない。
(甘露煮と餡子で糖度は十二分だな。汁の方で甘さを控えるか、餅を茹でる時に塩を極微量加えて、小豆そのものの輪郭を際立たせるか……)
──いくら何でも善哉は姐さんと悲鳴嶼さんの二人分だけにしよう、風柱殿への手土産としておはぎも作って差し上げたいし、小豆も砂糖も貴重だから……と、優柔不断な意志を抱きつつ、小鍋で餡子を炊き直す。
然う斯うしている内に広間の喧騒が増していて、健啖家師弟の歓喜の咆哮が此処まで轟いて来る。竈門達の配膳が恙なく済んだ事への、姐さん達が満足する『朝餉定食』を拵え得た事への、紛れも無い証左であった。
不覚にも弛みかけた頬を自戒と共に引き締めながら、芳醇な香りを纏う炊煙を立ち昇らせて微かな気泡を踊らせる餡子を、木べらで静かに混ぜ込んでいく。脳裏に過ぎるのは、本郷の坂の下に暖簾を掲げている『瑞祥堂』の善哉の記憶だ。
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