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日章旗のデューズオフ

第17章 【拾肆】宇髄(鬼滅/最強最弱な隊士)



──奥多摩近郊から丸一日以上歩き続けて荏原郡に位置する駒沢村へ到着したのは、蜩が遠くで物憂げに鳴く、西陽の眩しい夕方の頃だった。鎹鴉で先触れしていた予定時刻から大幅に遅れてしまったが、眦を釣り上げる素振りもなく出迎えて下さった槇寿郎様は、予想よりも穏やかなご様子であった。
「遅かったな、悲鳴嶼」
「申し訳ありません。煉獄殿」
「この駒沢に電気鉄道の路線はないと伝えておくべきだったか」
「……いえ」
都市部と異なり、交通手段の利便性が良いとはいえない郊外の事情を、悲鳴嶼も俺も分かっていた。分かっていながら『狭苦しい箱の中では巨躯を持て余す』という理由で態々徒歩移動を選択した俺達を槇寿郎様は揶揄っているのだ。そうして悲鳴嶼が返事に窮する姿に悪戯っぽく微笑む御姿にも余裕が見られた。
「名前君も良く来たな。息災のようで何より」
風柱殿から無理やり預けられた嫌味諸々を胃の腑に落とし込みつつ「槇寿郎様もお変わりないようで安心致しました」と、心からの言葉をお伝えすると、黄金色の鬣を揺らす雄獅子は眉尻を下げた。そのまま俺の頭を撫で回す掌が、現役当時と遜色のない力強さで、人知れず胸を撫で下ろしたりもして。
季節の変わり目を境に妻の容態が悪化する事が増えた──と悲鳴嶼へ静かに零す姿を偶然お見掛けした際は、その憔悴した姿に胸騒ぎを覚えたものだが、全ては杞憂だったようだ。この頃の俺は特に、此岸に遺される側の行動や想いを頻繁に邪推した。
「瑠火も首を長くして待っている。早く入れ」
「失礼致します。名前、往くぞ」
槇寿郎様は、この日より二十日ほど前に開かれた柱合会議で引退を表明されていた。その際に他の柱の皆々様方から強い反撥を受けたようだが、一人の夫として奥方様の傍に居る事をお選びになられた槇寿郎様に迷いが生じる筈も無い。炎柱の席は自慢の息子が継ぐので心配は無用──と誇らしげに語っていた事も記憶に新しかった。
「改めて杏寿郎を紹介しようと思っていたのだが、入れ違いで任務に出てしまった。継子を連れて帝都へ向かったから暫く帰ってこないだろう。悪いな」
「お気になさらず」
「はぁ……現柱である悲鳴嶼と交流を持つべきだと言ったのだがな。君達が瑠火の見舞いに来ると分かっていながら、気早なものだ。誰に似たんだか」

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