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日章旗のデューズオフ

第14章 【拾壱】岩&風&霞(鬼滅/最強最弱な隊士)



胡座の内膝に肘を着いた前傾姿勢で、合掌の親指を頤に引き掛けて鼻口を覆う姿は、一見するとだらしがなく、不誠実だと受け止められても仕方が無い。でも俺が巫山戯た態度を取っていれば、真っ先に悲鳴嶼が許さないだろうに。
「羯帝 羯帝 波羅羯帝 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶……」
「……え? なに? なにか言った?」
「……時透、名前へ声を掛ける事は控えてくれ」
見兼ねた悲鳴嶼が気を利かせてくれたお陰で、そこから霞柱殿は口を噤んだ。小さな声で謝罪も呟いていた。率先して集中を乱しているのは貴方だとは口が裂けても諫言出来なかった立場としては、一先ず緊張が解けた心地である。
「それにしても今のは一体。聞き慣れない言葉でした」
「般若心経だ。名前は反復動作として般若心経の真言を唱える」
「そうなんですか」
――悲鳴嶼の言う通り、阿弥陀如来の帰依を表して慈悲を重視した念仏を唱える悲鳴嶼や玄弥と違い、般若心経の真言をまじなう事が俺の反復動作だった。『空蝉』を扱う俺は『空』を肯定しなければ自我を保つ事が出来ない。
人を欺き、人を貶め、人を傷付け、人を斃してきた過去がある俺に南無阿弥陀仏は身に余る。神仏はきっと、往く先が地獄で確定している俺に慈悲を与えられない。だから己で己の在り方を肯定する、悟りの経典を選んだのだ。
(……にしても意外だな。興味津々じゃねぇの)
流れというものを滞らせるわけにはいかないので、一瞥を配る事すら叶わなかったが、視界の端で水縹色が揺れている事には気付いていたし、声の調子からしても浮ついた様子で、俺の一挙手一投足へ即座に反応している。

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